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14話 照らし出された真実

Author: ニゲル
last update Huling Na-update: 2025-07-20 07:30:24

「それで……辻斬りの件は何か進展はありましたか?」

お説教が済んだ後、ロンドさんが少し焦るように例の件について尋ねる。

「まー分かったこともあるが……確信には至らずって感じだな」

「そう……ですか」

ロンドさんはこんなに早く真実に辿り着けることはないと半ば分かっていながらもがっくり肩を落とす。

「分かったことと言えば……辻斬りは背の高い黒髪の男ってことだな」

(背が高くて男で黒髪……わたしと真逆みたいな人ってことか)

わたしは女性の中でも背が低く、女で金髪だ。辻斬りの特徴からは大きく外れている。まぁ犯人ではないのだから当たり前だが。

「分かりました……そろそろ時間なので僕は帰らせてもらいますね。引き続き辻斬りの件はお願いします」

「おう! 任せとけ!」

ロンドさんは帰り、この事務所はまたいつもの雰囲気に戻る。

「それにしても辻斬り……本当に物騒な世の中になっちゃったね」

「あ、あぁ……そうだな……」

前々から感じ取ってはいたが、師匠は辻斬りの話になるとどこかよそよそしくなり、こちらの顔を窺う機会が幾分か増している気がする。そういう変化は読み取れるものの、それがどういう心情や思考を表しているのかまではイマイチ分からない。

「わたし疲れたからもう寝るね。おやすみー」

「あぁおやすみ」

少し疑問に思ったが、特に気に留めずわたしは自室に入り寝支度を始める。

明日になればまた師匠と会い挨拶を交わし、ロンドさんも来てさっきのような笑顔溢れる空間になる。だからそこまで深く考えず眠りにつこうとする。

「ふわぁぁぁ」

明日起こることなど誰も知り得ない。この時のわたしもまさかあんなことになるだなんて想像もしなかった。

「う……ん……?」

寝ようとベッドの前に来たところで突然ズキりと頭が痛む。

「あ……がっ……!!」

パン屋であの男達に絡まれた時のような痛みがわたしを襲う。視界がぐわんと歪み足元がおぼつかなくなる。

「もう……だ……め……」

ついに限界を迎え、わたしはベッドに辿り着く前にバタリと倒れてしまうのだった。

「ふわぁぁぁ……うん?」

目を覚ますとわたしは自室のベッドの上に横たわって居た。

(確か部屋に入って……あれ? それからわたしどうしたんだっけ?)

寝る前の記憶が曖昧でおぼつかな
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